今回もVRネタ。VR空間で活動する際に肌の違う色のアバターを利用すると、人種的な偏見意識が減少する効果が少なくとも1週間は継続するよ、という研究。よく読んでみるとこの手の研究は良くあるみたいで、個人の性格とゲームで利用するアバターが相互に作用する効果は”Proteus Effect”という名前もついている様子。知らなかった…
タイトル:
Virtual Embodiment of White People in a Black Virtual Body Leads to a Sustained Reduction in Their Implicit Racial Bias
論文誌名:
Frontiers in Human Neuroscience, 2016.
著者:
Domna Banakou, Parasuram D. Hanumanthu, Mel Slater.
これまでの課題:
肌の色の違うアバター、例えば白人がVR空間内で黒人のアバターを使うことで、人種的な偏見意識が減少することはこれまでの研究でも広く報告されていたが、その効果がどれだけ継続するのか、についてはまだちゃんと調べられていなかった。
課題を解くために何をしたか:
VR空間内で肌の色の違うアバターを使う場合と使わない場合で、かつ複数回の経験を行うことで人種的な偏見意識が減少する効果はどれぐらい継続しうるのか、を検証している.評価項目は、Racial Implicit Association Test(IAT)というアンケートの結果。また、VR空間内で説明を行う説明者エージェントの見た目の効果も検証している(アジア人か白人か)。実験中に行うタスクはどの実験条件も同じで、説明者エージェントの指示に従ってトレーニングをする、というもの。
実験は2つで、1つ目は60人の女性被験者が参加している。条件はアバターの肌の色(白人 or 黒人)と体験回数(1 or 2 or 3)を組み合わせた、2×3の被験者間実験。このときの説明者エージェントの見た目はアジア人に設定されていて、体験回数が複数回の人はそれぞれ日を空けて再度実験を行っている様子。
2つ目の実験は、30人の女性被験者が参加している。このときの説明者エージェントの見た目は白人に設定、アバターの肌の色も白人に固定している。こちらの狙いは、体験回数の多さによってアバターの肌の色に関わらずIATが減るかどうかを調べるもの、とのこと.
実験と結果の概要:
実験1からは、アバターの肌の色が黒人だったグループはIATが1週間後も減少していたことが報告されているが、繰り返しの効果は若干不明瞭だった様子。実験2からは、体験回数による影響は見られなかったことと、説明者エージェントの見た目が影響がなかったことが報告されており、そこから実験1の結果がさらに支持された、と報告されている(実験1で見られた効果は繰り返しによるものではない、と主張ししたいのかな?)。
(以下は個人的な感想で、論文中に言及されたものではないのであしからず。)
感想:
実はこういう研究(アバターの肌の色で偏見が少なくなる)を初めて調べた論文だと思って読んでたら、もっと前にこの現象自体はちゃんと調べられていて、この研究の新規性はその効果が長く続くかを調べた、というものだったことに気が付いた。最初かどうかわからないけどよく引用されているのはこちらの論文っぽい。今回読んだ方の
オリジナルのPDFは、こちら。