読んだ論文のメモ。The midas touch: the effects of interpersonal touch on restaurant tipping

今回は接触の話。他人に触れられると向社会的行動が起きることは今でこそよく知られているけど、その効果を実際のレストランに来たお客さん相手に試したかなり初期の研究。触れられた人はチップを良く払うようになるらしいけど、日本ではあまり使うチャンスが無いかもしれない・・・。

ちなみにMidas touchはギリシャ神話から取られたもので、触れたものを何でも黄金に変える力のこと。こういうセンスは研究に興味を持ってもらうためにも大事だなぁと思う。

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タイトル:
The midas touch: the effects of interpersonal touch on restaurant tipping

論文誌名:
Personality and Social Psychology Bulletin, 1984.

著者:
April H. Crusco, Christopher G. Wetzel

これまでの課題:
Midas touch効果自体はいくつかの研究で調べられていたけど、実際の環境かつ自然な文脈で一般の人を対象にした際に本当に起きるのか、どれぐらい効果があるのか、といったことについては、この時点ではまだ研究がさほど進んでいなかった。

課題を解くために何をしたか:
ウェイトレスがディナーを食べに来たお客さんに触れる場合と触れない場合で、支払いにおけるチップの割合に変化が起きるかを検証した。

実験と結果の概要:
合計2か所のレストラン+3人のウェイトレスを実験場所および実験者とし、合計114人のディナーを食べに来た人を対象にした。チップをほとんど払わない10代の男女学生群や、ウェイトレスが触れる前にチップを払った人は除外している。

実験条件は3つで、手に触れる・肩に触れる・触れないを比較している。これまでの研究で手の方がより親密な印象を与えることや、肩に触れることは通常のやり取りでも多いことから、手に触れる方がチップの割合が増えるのでは、と予測していた。

結果としては、手でも肩でも、触れられた人は有意にチップの割合が(数%)増えた。この実験では性差は無く、肩の方が割合が低いと予測したがそうではなかった.また議論部分では、触られたことに気が付かなかった人も多くいたようで、Midas touchはサブリミナルな効果なのではないか、とも言及されている。あと、ウェイターでは実験してないので、触れる側の性差による影響はこの実験では未調査。

以下は個人的な感想で、論文中に言及されたものではないのであしからず。

感想:
自分が最近進めている、ロボットと人の接触に関する研究を始めるきっかけになった論文の一つ。人の行動が接触によって変わる、かつ他者に対して親切な行動(向社会的行動)を引き起こすというのが個人的に面白い。ロボットも同じように接触を通じて人の親切な行動を引き出せるのなら、ロボットが人の世界を少しだけ優しくできる・・・かもしれない。

チップの割合が増えたのは興味深いんだけど、そもそもチップを払う人が増えたかどうか、も個人的には知りたかった。向社会的行動を実行するかどうかと、その行動の価値というか強さが変化するかどうか、はまた別だと思うので。でも、基本的にチップを払うことが当たり前な環境で実験されているので、そこは調査の対象になっていなかった様子。残念。

どんな論文を書くときにReferするとよさそうか:
ロボットに限らず、接触行動が他者の行動にどういう変化をもたらすか、すなわち行動変容を扱う研究では、参照しておくと議論が広がりそう。

オリジナルのPDFはこちら

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